遺伝病をもつ人の子供は遺伝病になる、とはまったくいえないことが理解できる。 そして、これに対して単なる確率論として対処するのではなく、実際の遺伝子によって確認するのが遺伝子診断の特徴なのである。
海外にまで目を移すと、この受精卵診断(手法は少しずつ異なっている)によって誕生した赤ん坊の数は、欧米を中心としてすでに2ケタにおよぶ。 科学雑誌『ネイチャー』に掲載された論文などによると、第1号は1989年にロンドンの病院で行われている。
以来、その手法はいろいろに分かれたり、単純に男と女を見分ける「生み分け」検査があったりするものの、次第に多種類の遺伝病の検査へと広がっている。 たとえばアメリカでは90年頃から、テイ・サックス病、鎌状赤血球症、蕊胞性線維症といった国内で多発する遺伝病について臨床応用を開始、やはり10件をこえる成功報告がなされている。
T氏が留学していたジョーンズ研究所では、最初にテイ・サックス病という神経細胞での代謝異常が原因となる致死性の病気について遺伝子診断を行い、健常な子供の出産に成功している。 いままでに遺伝病としてリストアップされている病気の数は、4千とも6千ともいわれる。
理論的には、遺伝子の存在と構造が確認された病気については、受精卵診断によって発病の可能性があるかどうか、遺伝要素としてもっているかどうかがわかるはずである。 胎児診断につきものの中絶それでは、妊娠後に胎児の状態を知るための出生前検査ではなく、妊娠する前に診断を行う受精卵診断が、いま必要とされる理由は何なのだろうか。

T氏は、「産婦人科医として長いあいだ問題だと感じていたのが、胎児の段階で検査する出生前診断には中絶がつきもの、という現実です。 胎児に何らかのトラブルがあった場合には、中絶という悲しい結果になりやすいし、遺伝病の要因をもっている人の場合は、中絶を嫌って妊娠を避けている現実も問題なのです。
これらを避けようとすれば、妊娠する前の受精卵の段階で調べるのが合理的だと思うのです」という。 現在、先天性異常を調べる胎児診断としては、超音波診断のほかに羊水検査と繊毛検査が主なものとなっている。
確度の低い簡易法としては、母親の血液を採って特殊なタンパク質の量を測定することによって、胎児の奇形や染色体異常の可能性を探るものもある。 が、細胞内の染色体輪や遺伝子DNAレベルでの胎児診断の方法としては、比較的以前から行われている羊水検査と、醗後から登場した繊毛検査を念頭においておけばよい。

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